戻る

 

雨が強く降る
今日は日暮が早い
廊下を右に曲る
手術室
暗い入口の電燈が一つ

草花が一輪ざしに動かぬ
寝台の下
こほろぎがか細い声
あヽ病床生活もあきた

新聞雑誌の廣告
何回と無く讀む
藥の廣告に
注意しだした自分
これも癒りたい一念か
これを買って服用ふ
と煙草の箱に
書取って置く

絽ざしする者
手紙を書く者
死んだ様に眠る者
秋の雨が
すべて室に閉込んで
仕舞ったのだ

青空を見たい
赤とんぼが
もう
飛ぶだらう

 

1942(昭和17)年9月20日
マラリアで帰国入院していた頃

 

詩・歌曲トップに戻る